スケソウダラの速筋由来タンパク質の新たな可能性
かに風味かまぼこ(カニカマ)やちくわ、白身魚フライなどの原材料で使われているスケソウダラのタンパク質は、研究結果によりさまざまな有用性が明らかになりました。もともと血中の脂質改善を目的としてスタートしたスケソウダラ速筋由来タンパク質(APP:Alaska Pollack Protein)に関する研究でしたが、筋肉の増加、特に速筋の増加作用が発見され、健康ニーズの高まりとともに注目されています。筋肉増加作用に関するメカニズムの解明や、多数のヒトでの有用性エビデンスが基盤として整い始めており、「スケソウダラの速筋が、ヒトの速筋を増やす」という概念は信頼性を獲得し、さまざまな応用研究や、普及活動の取り組みが進んでいます。
出典:BiomedicalResearch 2010, 31(6), 347-352 J. Oleo Sci. 2019, 68(2), 141-148から作図
図 1.動物実験において確認された筋肉増加効果
研究のアプローチ
スケソウダラ以外の各種タンパク質においても、筋肉を増加させる効果があるか研究を行った結果、速筋を増加させる効果はスケソウダラ特有の効果であることが確認されました。
出典:Nutraceuticals 2023, 3(4), 513-528 から作図
図 2.1週間素材を投与した動物のふくらはぎ筋肉量の評価結果
また、ヒトにおける有用性を確認するために、厳しい条件での基礎研究を実施。65歳以上の女性に3カ月間、スケトウダラのタンパク質4.5グラムを毎日食べていただきました。この年代の方は、3カ月間で0.5%程度筋肉が減少しますが、試験を受けた19名中15名が、筋肉を維持したか、増加したとの結果が得られました。
その他試験でも、16〜22歳の若年世代、23〜64歳の成人、65歳以上の健康高齢者など、幅広い各世代で、筋肉量の増加が認められています。
出典:J. Nutr. 2023, 152(12), 2761–2770. から作図
図 3.65歳以上の女性92名が速筋タンパク4.5gを継続摂取した結果
各研究機関との共同研究、普及活動にも注力
本件研究は、2009年より愛媛大学と研究を開始し、2018年3月にAPP研究会を設立し、愛媛大学・東京大学・早稲田大学・徳島大学など18の大学や研究機関と研究体制を整え、共同研究を行っています。また、関連研究の一部は、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム研究課題番号14533567)「次世代農林水産業創造技術」(農研機構生研支援センター委託研究)に採択されています。
さらに、2020年に長野県東御市とは、連携協力に関する包括協定を締結し、市民の健康増進に関わる公益財団法人身体教育医学研究と市民を対象に、共同研究をスタート。地域の小中学校へアスリートと同じメニューを提供するなど、地域への貢献活動もあわせて実施しています。
図 4.長野県東御市との取組み例
人生100年時代では、加齢に伴い低下する速筋を維持・増強することは、自分の力で生活できる期間を延伸するためには必要です。本技術成果が、世の中に浸透し、習慣化していくことで、100歳まで楽しく活力のある生活を送れる方々が増えていくことを期待しています。