魚を引き立てる、おいしい名脇役
魚に添えられる薬味や様々な野菜。そこには、魚の旨みを引き立てる日本人の知恵と工夫が隠されています。盛り付けやお皿にも、尾頭付きや切り身、海魚・川魚などの調理法や魚の種類に合わせた、日本の伝統礼法が根強く残されています。さて、美しさをつくる味な演出とは? 第一回目のコラムは、魚を引き立てるおいしい名脇役についてご紹介します。
江戸時代の庶民は魚の脂が苦手だった!?
魚の塩焼きの添え物といえば、真っ先に思い浮かぶのが大根おろしですね。魚の脂を中和させ、さっぱりとしたおいしさを引き出してくれます。今でこそ魚の脂は、旨みの素として知られています。青魚に多く含まれるEPAやDHAなどの油は身体にも良いとされ、脂ののった魚が大人気です。ところが、江戸時代は魚の脂が嫌われていたってご存知でしたか?そう、江戸時代の庶民は脂の少ない淡白な魚を好み、脂の多い魚は苦手という人が多かったようです。脂の多い魚の代名詞といえば秋のさんまですが、江戸中期までは行燈の油として使用され、食用ではなかったとされています。その後、「安くて長きはさんまなり」と魚屋が貼り紙を掲げて売り出し庶民に広がっていきます。その過程で、脂を中和させよりおいしく食べる工夫として、大根おろしを添える習慣が定着したとも言われています。
他にも、いわしとの組み合わせの定番といえば梅干しがあります。梅干しの持つ酸味が魚の生臭さを消し、いわし特有の細かい骨をやわらかくする作用もあり、とても食べやすくなります。かつおの名脇役といえば、にんにく、しょうが、ねぎ、たまねぎ、みょうが、かいわれ、青じそなど、多様な薬味があげられます。
秋に南下する「戻りガツオ」は、たっぷりと脂がのった濃厚な味わいが特徴。春の「初ガツオ」は身が引き締まり、脂が少なめでさっぱり。いずれも刺身やたたきなどお好みの薬味と一緒に楽しめます。
さばのおろし和え
材料 [2人分]
「デンマーク産さば水煮」 1缶
大根 1/4本
大葉 2~3枚
ポン酢 適宜
- 「デンマーク産さば水煮」は缶汁をきり食べやすい大きさに切ります。
- 大葉は細切りにして水にさらした後、水気をきります。
- 大根をおろし、ザルで軽く水分をきります。
- 器に(1)(2)(3)を盛りつけ、ポン酢をかけます。
いわしと根菜の梅ポン酢炒め
材料 [2人分]
いわし 大2尾
だいこん 160g
にんじん 40g
ごま油 大さじ1
梅肉 大さじ1/2
ポン酢しょうゆ(市販品) 大さじ1
白ごま 小さじ1
- いわしは手開きし、骨をのぞいて約3cm幅に切ります。
- だいこん・にんじんは拍子木に切ります。
- 鍋にごま油を熱し、にんじん・だいこん・(1)の順に炒め、梅肉・ポン酢しょうゆで味をととのえます。
- (3)を器に盛り付け、白ごまをふります。
美しい盛り付けやお皿も欠かせない名脇役
刺身を美しく盛り付ける「けん」「つま」「辛味」は、なくてはならない脇役です。
大根やにんじんなど細切りにし立体的に盛り付け刺身の土台にする野菜を「けん」といい。紅たで・青じそ・菊花・花穂じそ・レモン・海藻など、刺身に香りと風味を添え、華やかさ・季節感など演出し美しく彩る野菜を「つま」。「辛味」は、わさびやしょうがなどピリっとした刺激や、さわやかな風味などで刺身を引き立てます。
ところで、つまの語源って何だと思いますか?ツマの意味は「妻」と「褄」の2通りあります。妻は言葉通り、奥さんのように主役となる刺身を支えるという意味です。もう一つの褄は、着物の裾の両端を意味する言葉。その名の通り、刺身の端に置かれることが由来です。つまには、口の中を洗う役割もあります。刺身を口に運ぶ前につまを食することで、口内に残る他の料理の味を消し、刺身本来の味を堪能できるようにするわけです。さらに、忘れてならない役割が刺身の盛り付けを美しく見せること。まずは目から味わう、日本料理の味な演出です。
美しい盛り付けは、魚料理のおいしさを引き立てる大切な要素の一つです。刺身の色味や魚の種類に合わせてお皿もチョイスしたり。たとえば、まぐろの刺身なら白いお皿でコントラストを強調するのも手ですが、黒いお皿で高級感を演出してみてはいかがでしょうか。石の質感や光沢のない黒がおすすめです。たいや あじなどの白身の刺身は、淡い色や透明のお皿との相性が抜群。
また、あしらいと呼ばれ、季節感などの趣(おもむき)を楽しんだり味を引き立てる役割をするものもあり、春にはなの花、夏にはきゅうりやみょうが、秋にはもみじなどを使っての演出はさりげないひと工夫で見た目にも素敵ですね。
まぐろの菊花づくり
材料 [2人分]
まぐろ赤身 1サク(約160g)
だいこん 100g
しょうゆ 大さじ2
菊花 4個
青じそ 6枚
- まぐろ赤身はしょうゆをかけて、20~30分間漬け置きにします。
- (1)の汁気をふき、5〜6mmの厚さに切ります。だいこんは、おろして水気をきっておきます。
- 菊花は1個分を残して花びらをむしり、(2)と混ぜます。
- 器に青じそを敷き、(2)・(3)を盛り、残った菊の花びらを散らします。
魚の頭は左、美しくみせる工夫の数々
焼き魚は、尾頭付きの場合お祝い事の際は必ず頭を左にするという原則があります。日本では古くから「左上右下(さじょう・うげ)」という左を上位とする伝統礼法があり、日本の伝統的な料理の一つである焼き魚には、そうした考え方が根強く残っているのです。まるで、お皿の上を泳いでいるかのよう。そんなイメージで置くのがポイントです。
また、尾びれ、胸びれ、背びれなどが焦げないよう焼く直前に塩をまぶすのも魚を美しくみせる工夫。化粧塩を呼ばれ、尾やひれがピンと張って美しく焼き上がります。
切り身の場合は、皮を上にする「皮表」が一般的ですが、うなぎ、あなごなど、身のやわらかい魚は身を上にする「身表」とします。さけやたらのように3枚におろした後、縦に切り分けたものは、皮が帯のように細長く付いています。こうした切り身は、皮を奥(お皿の上部)にして、身の厚い方が左になるように置きます。魚の下には、「かいしき」という緑の葉を敷くのがスタンダード。笹の葉、南天の葉、もみじの葉、いちょうの葉など、四季折々の葉でお皿を彩ると共に、魚臭さをお皿につかないようにします。
煮魚の場合も頭は左、盛り付けるお皿は、煮汁を入れられるように焼き魚より深さのあるものを選びます。煮魚は身が崩れやすくなっているので、鍋から移す際は箸ではなく、フライ返しなどを使うと便利です。全体的に地味な色合いになる煮魚。付け合わせで彩りを添えるのが盛り付けのコツです。代表的な付け合わせは、魚と一緒に煮込んだ根菜や茹でた青菜。白身魚にはわけぎとワカメを煮たもの、赤身魚には大根としょうがを煮たものが定番です。
ねぎ塩白焼き丼
材料 [2人分]
うなぎ白焼き 1尾
ごはん 茶碗2杯分
長ねぎ(白い部分)10cm
みょうが 1個
小ねぎ 4本【たれ】
白だし(市販品)大さじ1
水 大さじ2
- 長ねぎは白髪ねぎに、みょうがはせん切りにして、水にさらし、ざるで水気をよく切ります。小ねぎは小口切りにします。
- うなぎ白焼きは蒸し器でふっくらするまで蒸します。
- 器にごはんを盛り付け、(2)をのせて【たれ】(白だし・水)を回しかけ、(1)をのせます。
魚料理には、実に多くの名脇役が存在することがお分かりいただけたかと思います。そこには、魚の旨みを引き立てる日本人の知恵と工夫の数々が隠されていると共に、まずは目でおいしさを味わう日本人の食に対する考え方が凝縮されているといえます。おいしいは、「美味しい」と書きます。なるほど、美しさも味の一部なのですね。魚料理をつくる際は、美しさを添える工夫をしてみてください。