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食感の秘訣は、イオン強度が高い水溶液
食品加工では、食材を特定の液体や調味料に一定期間漬け込むことで、風味や保存性を向上させる技術があります。この調理法のことを「漬込み技術」といい、水産物を漬込み技術で前処理することで、外観、食感、全体の味わいなども向上し、おいしくなります。一方で、うまみ成分の流出や、本来の食感と異なってしまうという問題点も存在します。 そこで、ニッスイでは、漬込み液のイオン強度に着目しました。水産物をイオン強度が高い水溶液に漬け込むと、筋線維がゆるくほぐされ、その隙間に水が入り込むことで水分が保たれます。従来のpH調整剤を使用する方法とは異なり、筋線維の形はそのまま残るため、うま味成分の過度な流出を抑えることができ、加熱後は素材本来の食感やうま味が残ったまま、やわらかく、ふっくらと仕上がります。さらには、加熱調理直後から時間が経ってもこの保水状態は保持されるため、時間経過によるパサつきや身質が硬くなるなどの食感変化も抑えることができる技術です。
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図 1.イオン強度の高い液に漬けた時の筋線維の状態(イメージ図)
研究のアプローチ
ニッスイでは、この技術を魚の切身だけではなく、ほかの食材へ横展開する可能性を模索。人気の高いエビに着目しました。「本当においしいエビの条件は?」「既存の冷凍剥きエビやエビ加工品にお客様は満足しているのか?」研究者として何としてもエビ本来のおいしさを味わってもらいたいという強い想いで、この問いかけに真摯に向き合いました。そこで、さまざまな種類のエビや、市場のエビ製品の特徴を科学的に分析評価。おいしいエビの条件を明らかにしました。おいしいエビとは、
- エビのプリっとした食感
- 線維を感じる食感
- 赤と白のコントラストが明確な外観
- エビ本来の甘みとうま味が強く感じられること
が挙げられ、このおいしいエビを実現するために、イオン強度を調整する新しい漬込み技術を応用しました。
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図 2.新しい漬込み技術の商品特徴
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図 3.消費者調査の結果と実施風景
研究成果
当時、学校や産業施設の給食、レストランなどの調理現場では、調理の効率化のため魚の切身を凍ったまま大量に調理したいというニーズがありました。しかし、凍った状態から切身を加熱調理すると、ドリップが発生し身質がパサついて硬くなり、おいしくなくなってしまいます。そこで、この新しい漬込み技術を用いることで、凍ったまま調理しても、ドリップの流出、加熱による重量変化や身縮みを抑えることに成功。魚の切身は調理後、長時間が経ってもパサつかず、ふっくらした食感が保てるようになりました。こうして開発された「ふっくら切身シリーズ」は、現在ではさまざまな魚種で商品化され、フライや焼魚製品にも広く応用されています。
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図 4.ふっくら切身の商品特性と商品化例
この技術で漬け込まれたエビは、保水しながらも筋線維の輪郭がはっきり残るため、自然なエビの食感、透明感がない外観、素材本来のうま味を併せもった品質になります。この技術は「シーフードプロ製法」として、冷凍エビむき身「SHRINP PRO(シュリンププロ)」シリーズや、むきエビ、シーフードミックスをはじめ、エビフライやグラタンにも応用され、その品質は本物を好むお客様に選ばれ続け、ご好評いただいています。
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図 5.シーフードプロ製法
イオン強度を調整する新しい漬込み技術は、その後もさまざまな商品に応用されています。ニッスイでは、水産物本来のおいしさをお届けするための新しい加工技術の開発も積極的に進めています。