スケソウダラタンパク質に関する研究成果について
2019年10月07日
日本水産株式会社(代表取締役 社長執行役員 的埜 明世、東京都港区、以下「ニッスイ」)の食品機能科学研究所では、白身魚であるスケソウダラのタンパク質の筋肉増加効果について、2009年より愛媛大学と研究を開始し、2018年3月にスケソウダラタンパク質研究会を設立し、愛媛大学・東京大学・宇都宮大学・日本大学・東北生活文化大学など12の大学や研究機関と研究体制を整え、共同研究を行っています。
このほど、本研究会から得られた以下の5件の研究成果について、日本アミノ酸学会の第13回学術大会(2019年10月5日~6日、岩手大学教育学部総合教育研究棟(教育系))において発表しました。
なお、この研究の一部は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター)との共同研究によって実施されています。
(1)スケソウダラタンパク質配合食品の週4日摂取における高齢者の運動機能の検討
日本水産(株)食品機能科学研究所 内田健志 研究員
東北生活文化大学 川俣幸一 准教授(注1)
これまで、高齢者がスケソウダラのタンパク質を配合した食品を週7日間摂取した時、筋量・筋力を改善することを確認してきました。このたび摂取日数を週4日間に短縮した場合でも、プラセボ群(ホエータンパク摂取)と比較して筋力を改善することが確認されました。
(2)質量分析イメージングを用いたスケソウダラタンパク質摂餌ラットの肥大骨格筋解析
日本大学 井上菜穂子 専任講師(注2)
ラットの試験において、スケソウダラ由来のタンパク質を主要タンパク質源とする餌料を摂取すると腓腹筋重量が、顕著に増加することを確認しました。特に、腓腹筋の外側の筋繊維(ほぼ、速筋繊維)は、1.4倍程度増加していることが明らかになり、速筋の肥大を顕著に促進していることが示唆されました。
ラットの腓腹筋の細胞の比較
左:カゼインを主要タンパク源とする餌料を摂餌した場合
右:スケソウダラを主要タンパク源とする餌料を摂餌した場合
(3)長期間のスケソウダラタンパク質の摂取が成熟ラットの骨格筋重量を増加
愛媛大学 藤谷美菜 助教(注3)
スケソウダラタンパク質の摂取による骨格筋肥大効果は、これまでインスリン様成長因子の血中濃度が高い若齢期のラットで研究していました。本研究では、その濃度が低下・安定した成獣期のラットにおいても、同様に骨格筋肥大効果があることが確認されました。
(4)スケソウダラタンパク質摂取の廃用性筋委縮の回復に対する影響
宇都宮大学 水重貴文 准教授(注4)
ギプス固定による廃用性筋委縮(*)時と、廃用性筋委縮からの回復期、それぞれにおいて魚肉タンパク質の摂取による筋肉への効果について、ラットを用いて検討しました。委縮時においては、委縮は抑制できませんでしたが、筋委縮からの回復期においては、筋繊維の肥大を促進することにより、回復が促進されることが確認されました。
(*)廃用性筋委縮:寝たきり、無重力状態、ギプスによる固定など、筋肉を動かさない状況が続くことにより、身体の筋肉量が減少すること
(5)廃用性筋委縮の回復期においてスケソウダラタンパク質摂餌が骨格筋肥大に与える影響の解析
日本大学 井上菜穂子 専任講師(注5)
(4)において回復を促進した筋繊維を分析したところ、筋委縮からの回復が有意に亢進し、その際、速筋のうちタイプⅡbと呼ばれる速筋繊維の面積が特に増加していることがわかりました。
(タイプⅡb:速筋は、タイプⅡa、Ⅱx、Ⅱbの3タイプあり、Ⅱbが一番瞬発力を発揮するといわれている。)
まとめ
- 1.スケソウダラは、週4日間の3か月間(タンパク量として1日あたり4.5g)摂取することによって、65才以上の高齢者の筋力を増加させることが示唆されました。
- 2.筋肥大効果は、主に、速筋の増加によるものであることが示唆されました。
- 3.ラットにおいては、若齢期~成獣期においても、同様に筋肥大効果があることを確認しました。
- 4.廃用性委縮からの回復期は、筋繊維の肥大と、タイプⅡbと分類される速筋繊維の比率増加により、回復速度を促進していることが示唆されました。
ニッスイは、水産物が持つ特徴的な機能に着目した研究を継続するとともに、その成果を活用して、人々の健康的な生活に貢献する商品の開発をすすめていきます。
- 注1 日本水産(株)・東北生活文化大学スポーツ栄養学研究室・リハビリデイサービスうるおす仙台による共同研究です。
- 注2 日本大学・愛媛大学院・日本水産(株)・東京大学大学院農学生命科学科ILSI-Japan寄付講座「機能性食品ゲノミクス」による共同研究です。
- 注3 愛媛大学・日本水産(株)・横浜薬科大学・東京大学による共同研究です。
- 注4 宇都宮大学大学院・宇都宮大学・日本大学・日本大学大学院・日本水産(株)・宇都宮大学学術院による共同研究です。
- 注5 日本大学・宇都宮大学学術院・宇都宮大学大学院・日本水産(株)による共同研究です。