人工的にふ化させた稚魚から育てる技術

ニッスイグループは天然資源への負荷軽減、市場への安定供給を目的に、天然の稚魚から育てる養殖だけではなく、人工的にふ化させた稚魚から育てる人工種苗の研究に取り組んでいます。サーモン類・ブリ・クロマグロなどを養殖していますが、そのうち人工種苗による養殖は、海外サーモン養殖事業・国内ブリ養殖事業で行っています。

図1.ブリの完全養殖のサイクル

成熟制御および人工種苗飼育技術

一般的なブリ養殖では、東シナ海から日本近海で採捕された稚魚を用いることが多く、これらは主に冬場に出荷されます。一方で、夏場のブリは、春の成熟の影響(卵巣や精巣の発達)で、食欲が低下し、成熟ホルモンの影響で初夏には痩せてしまいます。そのため秋まで十分に太ることができず、脂のりや肉質が悪くなり、食味が低下してしまいます。一方、1年若いブリは、成熟の影響は受けませんが、サイズが小さいために十分に脂ものらず、こちらも十分においしいぶりとは言えません。
ニッスイでは、これらの課題を解決するため、採卵のタイミングを調整した早期採卵人工種苗を活用することを2006年から検討しました。2011年には、狙ったタイミングで親ぶりから採卵できる高度な成熟制御技術と、健康な人工種苗を生産する技術を確立し、夏痩せを回避、夏でも出荷できるブリを生み出しました。

図 2.季節ごとのブリの取扱量の推移

ニッスイ独自の高成長かつ痩せない育種ブリ

夏場にも出荷できるぶりは「黒瀬の若ぶり」として大変好評を得ていましたが、さらなる品質向上のため、より大きなサイズが求められていました。しかし、採卵のタイミングを早めることでサイズアップを図ると、夏場には成熟の悪影響による痩せが生じ、おいしさを追求することが難しくなります。そこでニッスイでは、ブリ人工種苗自体の成長を早めるため、育種の取り組みや育成技術の改良を進めました。その結果、短期間で大きく育てると成熟しにくく、品質の高い大きなサイズながらも痩せない完全養殖ブリを作ることに成功しました。また、高度な採卵技術・種苗生産技術と育種・育成技術が統合されることで、通年で安定した高品質のブリを提供することが可能になりました。これらの成果を活用し、グループ会社である黒瀬水産株式会社は、2022年の出荷より人工種苗100%の完全養殖を実現しており、天然種苗を捕獲せずに安定的に養殖ブリを生産できる体制を構築しています。

図 3.人工種苗による養殖ブリ(上)/天然種苗による養殖ブリ(下)

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